慶悟先輩が隠してきたこと

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慶悟先輩が隠してきたこと

二日後の土曜日。たもくんからしらさぎが丘児童養護施設が取り壊されることになったと聞いて、いてもたってもいられず見に行くことにした。彼と青空さんと蜂谷さんも一緒だから安心だ。 はじめは車窓からそっと見る予定だったけど、僕と同じように様子を見に来ている卒園生が何人かいた。そのなかにはたもくんと慶悟さんの姿もあった。Tシャツにジーンズというラフな格好のたもくんに対し、慶悟さんは派手な柄シャツにスラックスという格好だった。 「あ、兄貴、お疲れ様です」 蜂谷さんに気付いた慶悟さんが慌てて頭を下げた。 「お疲れ。手を繋いで仲良くデートか?」 蜂谷さんはふたりの手首にお揃いのミサンガが巻かれていることにすぐに気付いた。 「慶悟、もし岩水と交際しているなら、親代わりの武田夫妻にちゃんと挨拶をしてこい。それが筋ってもんだぞ。夫妻に心配を掛けるな」 握っていた手をほどこうとしたたもくん。慶悟さんは逃がさないと言わんばかりに力を込めた。 「あ、あの、すみません。たもくんにどうしても聞きたいことがあるんですが、聞いてもいいですか?」 「あ?」 慶悟さんの眦がつり上がった。 「この際だからはっきり言わせてもらうが、保は俺のだ。だから、馴れ馴れしく呼ばないでくれ」 「慶悟先輩、四季は妹みたいな存在で……」 「だから心配でほっとけないんだろう。可愛くて仕方がないんだろう。命を張らなくても、四季には和真とヤスと青空がいるだろう」 たもくんは何か言いたげだったけど、じろりと慶悟さんに睨み付けられ黙り込んでしまった。 「慶悟、今のは問題発言だぞ」 「何が問題発言なんですか?」 「胸に手をあてて考えてみろ」 蜂谷さんに何を言われても慶悟さんは態度を変えることはなかった。 バリバリバリと音を立てて園舎が取り壊されていく様子を僕たちは離れた場所からただ見守ることしか出来なかった。 楽しい思い出よりも辛い思い出のほうが多かったような気がする。みんなのお母さんだったまなみ先生。園舎をバックに撮影した集合写真を胸に抱き締めた先輩たちが涙を流しながらじっと見つめていた。
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