4 『誰』のため?

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(おごそ)かなBGMが流れる中、告別式は()り行われた。司会台には、当真さんが立っている。当真さんの判断で、西中さんはご記帳の補助のためにロビーで待機することになった。ご記帳のやり方を知らない会葬者もいらっしゃるから、ご記帳の補助も大切な仕事だ。 私はお焼香案内や当真さんの補助をしながら、こまめにロビーをチェックした。西中さんだけで対応できなさそうな時は、静かにロビーに出て対応する。西中さんは終始気まずそうな表情をしていたけど、そんなの関係ない。このお葬式を無事に終えるためには、西中さんの力も必要なのだ。私は彼女を信頼すると決めていた。 当真さんの司会は、言葉は少ないけど、低く落ち着いた声で淀みがなく、すごく心地よく耳に響く司会だった。思わず聞き入ってしまいそうになるけど、私にはやることがたくさんあるから集中しなければいけなかった。お焼香のやり方が分からず戸惑っている会葬者はいないか、香炉の火が消えたりはしていないか、常にチェックをする。 読経が終わりに近付いた頃、当真さんが私に目配せをした。私は静かにお寺さんのうしろに立ち、お寺さんが立ち上がるタイミングで、『曲録(きょくろく)』と呼ばれる、お寺さんが座る椅子を斜め左に引いた。お寺さんが退場しやすいようにするためだ。
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