4 『誰』のため?

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「ご導師、退場です。皆様、合唱一礼をもってお見送りをお願い致します」 当真さんの司会に従って、会葬者が手を合わせ、お寺さんに向かって頭を下げた。お寺さんを先導して退場した私は、ロビーにいる西中さんに耳打ちした。 「西中さん、お寺さんを導師控え室にご案内お願いします」 「…あ、あの、私やったことなくて…」 西中さんは不安げな表情でそう言った。私には今の彼女の気持ちがよく分かる。だから、私は自分が同じ気持ちだった時のことを考えながら、あの時の自分が欲しかった言葉を伝えようと思った。 「大丈夫です。お寺さんのお茶出しは料理屋さんにお願いしてあります。もし導師控え室が分からなければ、1階エスカレーター横に事務室がありますのでそこでお聞きしてください。ご案内が終わったら、式場に戻ってお花もぎの補助をお願いします」 そう笑顔で伝えると、西中さんは少しだけ安心した様子で頷いた。西中さんがお寺さんを先導していくのを確認し、私は式場に戻ってお花もぎに参加した。 菊の花はあまり触ったことがないので戸惑ったけど、洋花はフラワーアレンジメント教室を開いていたお母さんの影響で、少しだけ知識があった。生花に体を引っかけないように注意しながら、お花をもいでいく。少し経った頃、西中さんが式場に入ってきた。花祭壇を前にして不安そうに目をキョロキョロしている。 「西中さん、お花もぎは初めてですか?」 「…はい、初めてです」 「じゃあまず、ピンクのカーネーションからもいじゃいましょう。カーネーションは茎が折れやすいので、お花の部分だけを手折(たお)ってお盆の中に入れてください。その次は紫のトルコキキョウをお願いします。トルコキキョウは茎が柔らかくて折れにくいので、茎とお花の間を引っ張ってお花を引き抜くか、茎とお花の間に親指の爪を入れると簡単にもげますよ」
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