4 『誰』のため?

18/24
前へ
/182ページ
次へ
実演してみせると、西中さんはたどたどしくも一生懸命お花をもいでくれた。その姿がなんだか嬉しくて、木谷さんもこんな気持ちだったのかなと思った。 「果音ちゃん、すごい知識だね〜!ウチに入って欲しいくらいだわ」 「おだてたってなにも出ないですよ、石山社長」 「無駄口叩いてないで、とっとと花もぎ終わらせるぞ」 当真さんは呆れた口調でそう言いながらお花をもいでいる。当真さんや石山社長のスピードにはぜんぜん敵わないけど、今の私には周りを見ながらお花もぎをする余裕があった。私は西中さんのフォローをしつつ、スターチスやかすみ草、デルフィニウムなどの、手では切りにくいお花を抜いてどんどん石山社長に手渡した。石山社長は、腰のベルトに装着している入れ物から花切りバサミを取り出し、それらのお花をお盆に合わせて切り揃えていく。 写周りのユリはテーブルが高くて私や西中さんでは手が届かないので、当真さんと石山社長に任せて取ってもらった。ある程度お花が溜まったタイミングで、私は西中さんにロビーで待っている会葬者を呼んできてもらった。会葬者の皆さんが、式場中心にご安置されている蓋の開けられたお棺を取り囲むように入場してきた。 私は祭壇の隅に飾られていた、故人様の思い出の品が飾られている台の前に立つ。前回はお花からお渡ししようとして失敗したけど、もう同じミスは繰り返さないように式前からちゃんと段取りを考えていた。 「これより、故人様の思い出の品をお納めいただきます」 当真さんの司会に従って、私はご遺族に故人様の思い出の品を手渡していく。故人様がご遺族と写っている写真や、故人様が手作りされた綺麗な押し花などの思い出の品が、ご遺族の手によってお棺に納められていく。 この思い出の品とともに、故人様は天国へと旅立つのだ。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加