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悩んでいる私の横を通って、当真さんが床に片膝をついて男の子の目線に合わせた。
「おい、ボウズ。お前がそんなに泣いてたら、ひいばあちゃんが安心して眠れないだろ?ほら、これを入れてやりな」
そう言って、当真さんは一輪のユリを男の子に差し出した。それを見て、男の子はしゃくり上げるように泣きながらユリを受け取る。男の子のお母さんは、涙ぐみながら当真さんに頭を下げ、男の子を抱き上げた。大好きなひいおばあちゃんの顔の横にユリを納めた男の子は、お母さんの胸に顔をうずめて静かに泣いた。
男の子を見つめる当真さんの瞳は、すごく優しい色をしていた。
…私は、思い出した。
あの時泣いていた私に、黒い服を着た男の人が、ユリを差し出してくれたんだ。それを受け取って、おばあちゃんのお棺にユリを入れたんだ。大好きなおばあちゃんに、おばあちゃんの好きだったユリを渡すことができて、すごく嬉しかったんだ。
当真さんの瞳を見ていたら、あの時の思い出が鮮明によみがえってきた。そしてしばらくの間、私は当真さんから目を離すことができなかった。
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