4 『誰』のため?

21/24
前へ
/182ページ
次へ
* 「たまにああいうことがあるから、小さいガキがいる現場だと余分に花を残しとくんだ。面倒だ、まったく」 ブラックコーヒーを飲みながら、当真さんはため息をついた。出棺と火葬が終わり、お清めも全て終了してがらんとした落合斎場のロビーに据えられたソファーに腰掛け、私は当真さんの横顔を見ていた。私の手には、冷たいアイスミルクティーが握られている。当真さんに奢ってもらったものだった。キンキンに冷えた缶のアイスミルクティーが手のひらの熱を心地よく奪っていく。 「…当真さん、昨日はすみませんでした」 私はそう言って頭を下げた。 「もういい、謝るな。謝るぐらいなら最初からミスるな。もしミスったら、同じミスをしないように考えて動け。今日お前が実践していたみたいにな。それでいい」 ロビーに掲げられた時計の針は、ちょうど14時を指していた。式が終わるまでは夢中で気付かなかったけど、けっこうお腹が空いている。 「…あの、西中さんは…」 「心配すんな。辞めさせられたりはしない。木谷さんがいるからな。辞めさせられるよりもっとキツイ目に遭わせて、しっかり矯正してくれるだろうよ」 そう言ってニヤッと笑う当真さんの横顔を見て、やっぱり性格悪いなこの人…と思った。 「それにしても、お前はお人好しだな。あんなクソレディーどうなってもいいじゃねえか。嫌がらせされた相手を心配するなんざ、お人好しを通り越してボケナスだ」 「…前から聞きたかったんですけど、そのボケナスってなんなんですか?」 「ボケナスはボケナスだ。そんなことも理解できないほど頭が悪いのか、ボケナス」 …このやろー。と思いながら横目で当真さんを睨む。当真さんは気にする素振りもなく、ブラックコーヒーを飲んでいた。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加