4 『誰』のため?

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「あの、もう一つ聞いてもいいですか?」 「なんだ?」 「当真さんは、お葬式って誰のためにするんだと思いますか?」 その質問に、当真さんは考え込む様子もなく、静かに飲み掛けの缶コーヒーを横に置いた。がらんとした落合斎場には、昨日のように空調の音だけが響いている。 「葬式は、死んだ人間のためにするんじゃない」 当真さんはまっすぐ前を見据えたまま、そう言った。 「葬式は、これからを生きていく遺族と会葬者が、前を向いて生きていくためにするんだ」 当真さんはそう言ってコーヒーを飲み干した。 その言葉を聞いて、昨日の夜、弓野社長が言っていたことの意味が分かった。きっと当真さんもハネさんも、色々な失敗や後悔を重ねながら、ずっと考えていたんだ。どうすればもっとお客様に寄り添えるのか、どうすればもっとご遺族や会葬者の心に残るお葬式を作ることができるのかを。 だから弓野社長は、当真さんとハネさんが言った言葉なら正解だって言ったんだ。 私になくて、当真さんやハネさんにあるもの。それは、『常に考えて、それを行動に移すこと』だったんだ。
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