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「このボケナス!」
静まり返った斎場のロビーに低い怒声が響き渡った。
「自分が何をやらかしたか分かってんのかお前は!?」
空調のよくきいたこの建物は、真夏だというのに身震いするくらい寒い。
「すみません」
「すみませんじゃねぇだろ!」
間髪入れずに返ってくる怒鳴り声。じゃあなんて言えばいいのよ、と思った。この人は、『すみません』という言葉が嫌いだ。謝るくらいなら最初からミスるな、そう言うことらしい。
早く帰りたい、そう思っている私の心情を知ってか知らずか、いっそう激しい怒声が飛んだ。
「お前は軽く考えてんのかもしれねぇがな、遺族にとっては最初で最後の大事な葬式なんだよ!」
あまりの剣幕に、斎場職員の人達が遠巻きにこちらの様子を伺っている。恥ずかしいから早く終わって欲しい。そう思っていたら、いつの間にか怒声が止んでいた。私はちらっとその人を見上げた。
その人は、今まで見たことないくらい鋭い眼光で私を睨んでいた。その迫力に私は思わず身構えた。殴られる、と思った。
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