ボケナスとお葬式

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「…あの、大丈夫?種村さん」 ふと顔を上げると、いつもはイジワルな事務員の山下さんが、普段では考えられないぐらい優しい表情で私の顔を覗きこんでいた。その手には水色のハンカチが握られていた。こんな時ばっかり優しくしないでよ。 「ちょっと、種村さん!?」 山下さんの声を背中で聞きながら、私は走った。もう1秒でも早くこの場からいなくなりたかった。頭の中が真っ白になって、無我夢中で走った。慣れないヒールの足音が、落合斎場のホールに虚しく響く。 自動ドアから外に出ると、ムワッと湿っぽい熱気が全身を包む。真っ暗な外には、しとしとと雨が降っていた。
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