10人が本棚に入れています
本棚に追加
*
昨夜の雨が嘘だったように、晴れ渡る空。流れる雲。時刻は朝7時34分。私は落合斎場の事務室前に立っていた。事務室前には自動販売機が設置されている。私は冷たいミルクティーを購入して、一気に飲み干した。夏の日差しで火照った身体と、冷たくて甘いミルクティーは最高の相性だと思った。流れる汗をハンカチで拭いながら、私は空を眺めていた。
「種村さん、おはよう」
その声に振り返ると、黒縁メガネの山下さんが立っていた。いつものトゲトゲしい雰囲気ではなく、伏し目で遠慮がちに私を見ていた。
「その…昨日は大丈夫だった?」
山下さんはおずおずとそう切り出した。昨日の夜、山下さんは、当真さんに怒鳴られた私に水色のハンカチを差し出してくれた。その時の私は、そんな山下さんを鬱陶しく感じて無視をした。でも、今なら分かる。山下さんはあの時、本気で私の心配をしてくれてたんだ。そしてきっと、今も私のことを気に掛けてくれている。
「山下さん、昨日はすみませんでした!」
思いっきり、頭を下げる。あんなに苦手だった山下さんに、自分でもビックリするくらい素直に謝ることができた。突然私が大声で頭を下げたせいだろう、事務室から別の職員の人が私達をジロジロと見ていた。山下さんはあたふたと慌てた様子で首を振った。
最初のコメントを投稿しよう!