4 『誰』のため?

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「謝る必要なんてないの!…元気そうで良かった、安心したわ」 山下さんはそう言って微笑んだ。黒縁メガネの奥に光る瞳が、とても優しかった。 「今日も9時から開式だったわね?式場チェックするんでしょう?今から鍵開けるね」 「え?だ、大丈夫ですよ!8時まで待ちます」 「いいのいいの!たまにはちょっとくらい早く開けたって大丈夫よ!早めに式場入ってちょっと涼んでなさい!まったくもう、こんな暑いところにいたら倒れちゃうわよ!?少しは自分の身体を(いた)わりなさい!」 そう言って山下さんは強引に私の手を引っ張った。言葉のキツさは相変わらずだけど、山下さんの言葉の奥にある優しさを知ったから、受け取り方がぜんぜん違う。手を引かれながら、私は思わず笑ってしまった。
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