4 『誰』のため?

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式場チェックを済ませ、私は式場に並べられた椅子に腰掛けて、ぼんやりと祭壇を眺めていた。 今回の花祭壇は洋花が基調になっていて、ピンクのカーネーションや紫のトルコキキョウで彩られた華やかな祭壇だった。ご遺影の周りの祭壇、『写周(しゃまわ)り』と呼ばれる祭壇には、カサブランカ、いわゆる白ユリの花が生けられていた。ユリは、故人様が特に気に入っていたお花だったそうだ。 故人様は84歳の女性で、喪主様のお母様である。故人様は、四つ切りサイズのご遺影の中で、深いシワの刻まれた、とても優しい笑顔をしていた。どこか、私のおばあちゃんに似ていると思った。 優しかったおばあちゃん。イタズラをしてお母さんに叱られてばかりの私をいつも慰めてくれたおばあちゃん。ユリが好きで、遊びに行くといつも帰りに一輪、お土産にと持たせてくれたおばあちゃん。祭壇のユリを眺めていたら、そんなことをふと思い出していた。 …そうだ、ユリだ。私は、ユリの花をおばあちゃんのお棺に入れたくて泣いていたんだ。おばあちゃんのお葬式は会葬者がすごく多くて、ユリの数が足りなかった。私はおばあちゃんに、おばあちゃんが大好きだったユリを渡してあげたくて泣いていたんだ。お父さんとお母さんがすごく困った顔をしていたことまで鮮明に思い出せる。 そうだ、思い出した。あの時、泣いている私に、あの人が…
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