410号室

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 それから、コンビニに行って、お菓子とお弁当と飲み物を買ってマンションに戻ってきた。 エントランスで、重い雰囲気の郵便受けの取っ手に手を掛けてみる。 もちろん410号室宛に届いた郵便物の確認のためだ。 そこにあったのは、郵便物なんかじゃなくて私の部屋の鍵と、それを持ってうっすらと消えていく大きくて私のよりはごつごつしている誰かの左手。 明らかに、男性の手のそれだ。  フツーなら怖がるのかも知れない。  ここで、もう一度言おう。  私には、赦せないことが二つある。 例え練習中の演奏であっても、それを邪魔されること。そして、デリカシーの欠片もないマウントを取ってくる男だ。 嫌いと言ってもいい。 例えそれが、幽霊だろうが関係なく。だ! 人ん家の鍵を勝手に持ち出して、こんな訳のわからない嫌がらせ! デリカシーの欠片もない! 私はポストの鍵を取り出して、ずんずんと階段を登って、自室の前へと着いた。 ドアの下のキャップを見ると、セットした時のままだ。 つまり、生きている人は誰も入っていないと言うことだ。 入って出ていった可能性がなくはないのだけどね。
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