410号室

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 その数日後、私は楽器演奏可能な物件を探して、ふたつ上の先輩でもあり友人でもあるルリちゃんの車に乗っていた。 「こっちに来て、初めての引っ越しがこんな形なんてね。 あのマンション、住んで半年も経っていないんでしょ?」 そう言って、私を助手席に乗せるルリちゃんの左腕には、艶のあるウッドバンクルがわずかに揺れている。 「まぁね。 まぁ、普通の学生向けマンションでがっつり楽器演奏するからこう言う憂き目に遇う。 わかっちゃいるんだけど、でもマンション決めたときには、この街の右も左も判らなかったんだもん!」 しかしまぁ、だいたい、何事も急ぐからこう言うことになるんだよね。 「ほんとはさ、もう少しうちとこに泊めてあげたいんだけどさ、カレシがね…。」 まぁ、それもそうだ。 音楽部三回生の先輩のルリちゃんには、社会人の付き合っているカレシがいる。 前のマンションを追い出されてから、もう四日経ったんだから。 これ以上は無理言えないよね。
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