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船はそれほど揺れてはいない。
「おーい、じっとしているのは、にゃんとも耐えられないヒヒーン」
承知之助のそばで、袮子が地団駄を踏むように苛ついている。どうやら、水が怖いらしい。海ではないにせよ、琵琶湖はまさに湖であった。
「ははぁん、袮子どのが汎速を嫌うのは、あいつが頭の皿から水を噴き出すからだな」
「べつに嫌いじゃないにゃ。あいつ、喋り過ぎるんだ……あの声が……」
「なるほど。でも、しばしあいつとはお別れだから、寂しくなるぞ」
「でもにゃ、新顔が増えて、結構、新鮮な心持ちだぞ」
「ま、そういうことだな……」
揺れる湖面の色合いは、あのモリモを包んだ光の束が跳ねているようにも承知之助の目に映っている。
油断は禁物だ。
家康公十七回忌の四月十七日まで、あと、ふた月……
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