消えたし、消える、意味もなく

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 少し前、友人との会話の流れの中で、『猫の(ひたい)ほどの……』と、日常生活ではおよそ使わないような表現をして語彙力(ごいりょく)の高さとオシャレさを誇示してみたら、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をされた。  一瞬、僕の高度な言い回しに理解が追い付いていないのかと疑ったが、どうやら違うらしい。  いくら説明しても、猫という動物そのものがわからないと返される。  ――猫を知らないだなんて、変わった人間もいるものだ。  今度は僕が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。  猫というものを知らないのであれば、僕の素敵な表現技法を解さないことも無理はないが、僕のオシャレさを理解できないことは、なんだかもったいないと感じる。  しかし、何かがおかしい。  猫を知らない人間が、いるものだろうか。  僕は不思議に思った。 
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