【2000字掌編】振り返っても、君はいないけれど

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勇太(ゆうた)、今度の日曜日の事だけど。予定開いてる?」  帰り支度をしていると、後ろの席から聞き慣れた少年の声が届いた。 「遊びにいこう、もうすぐ卒業だし」  勇太に言い置いて、ランドセルを背負った(かなめ)は図書室に返す本を手に教室を出ていった。残された勇太は、マスクの下でどんな顔をしていいのか分からなかった。  小学校の卒業式まであと一か月。  要はまた、中学入学を境に遠くへ引っ越す。先生の話では5年生の転入時から決まっていたそうだ。  そんなこと一言も口にしなかったのに。秋のマラソン大会の頃から親友との間に出来ていた溝が、跳び越せぬほど広く深く感じられた。
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