6人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日曜日、ドアホンの音で勇太が扉を開くと、ダウンジャケット姿の要が立っていた。勇太はセーターの上にダッフルゴートを羽織り、彼がくれた手書きの地図を確認する。
「最初は、みどりヶ池公園。その次は赤瀬橋……」
今更、「何故」とは聞かなかった。引っ越す前にゆっくりと街を眼に焼き付けておきたいのだろう。
「要。それじゃ、行こうか」
先頭に立って駆け出した勇太の後を、要は小走りでついてくる。
転入当初、教室の片隅で本を読んでばかりだった要を、サッカーに誘ったのは勇太だった。とはいえ、要はつまらないと言うかもしれない。
先生に見つからないよう祈り、サッカーの有名漫画をランドセルから取り出し、勇太はいかにスポーツが面白いかを得意げに語ったのだった。
あれから二年。やんちゃで負けん気の強い勇太は、物静かな要といると伸び伸びと力を発揮できた。要はといえば、勇太と遊ぶうちにクラスに打ち解けるようになった。
最初のコメントを投稿しよう!