【2000字掌編】振り返っても、君はいないけれど

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 次の日曜日、ドアホンの音で勇太が扉を開くと、ダウンジャケット姿の要が立っていた。勇太はセーターの上にダッフルゴートを羽織り、彼がくれた手書きの地図を確認する。 「最初は、みどりヶ池公園。その次は赤瀬橋……」 今更、「何故」とは聞かなかった。引っ越す前にゆっくりと街を眼に焼き付けておきたいのだろう。 「要。それじゃ、行こうか」  先頭に立って駆け出した勇太の後を、要は小走りでついてくる。  転入当初、教室の片隅で本を読んでばかりだった要を、サッカーに誘ったのは勇太だった。とはいえ、要はつまらないと言うかもしれない。  先生に見つからないよう祈り、サッカーの有名漫画をランドセルから取り出し、勇太はいかにスポーツが面白いかを得意げに語ったのだった。  あれから二年。やんちゃで負けん気の強い勇太は、物静かな要といると伸び伸びと力を発揮できた。要はといえば、勇太と遊ぶうちにクラスに打ち解けるようになった。
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