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「マラソン大会で勇太を追い抜いたとき、一瞬は確かにスカッとしたさ。でも苦しんでる鳥がいて、それを見て見ぬふりをしている自分が勝っていいのかって。僕は……勝ちたかったんじゃない、勇太みたいなヒーローになりたかったんだ」
心に芽生えた感情を自信を持って言える要が、勇太は羨ましかった。後ろにいる要を振り返るときいつも本当は怖かった。要がいなかったときの、どこか不安な自分を思い出すから。
ようやく安心できる居場所を見つけた気がする。
勇太は要の横に並んで立ち、空を仰ぐ。旅立つ渡り鳥はきっと元気に飛び続ける。要だって、次の地図を見つけてうまくやっていくに違いない。役に立てたならそれでいい。
「……要だって俺のヒーローだよ、出会えて最高だ」
頷く要が「そのセリフ、僕も言いたいな」と声を弾ませたから。
大丈夫、勇太はお日様みたいに笑う。
この記憶を、心のリュックサックにしまって背負うから、君がいなくてもきっと温かい。
<了>
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