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うららかな午後。上司の柞磨さんと正門の前に立ちながら、おれは止まらないあくびをかみ殺していた。
昨日の飲み会、楽しかったなあ。学生時代のメンバーが集まって、めちゃくちゃ盛り上がった。そういえば三軒目の後、駅前でキレイなお姉さんをナンパして「話しかけんな、このクズ!」って罵られたのは夢だったのだろうか。いいよね、強気女子……
「こら小畑! 立ったまま寝るな!」
「ほあっ」
膝裏にローキックが入る。よろけて振り返ると、クレーンマンの黒田さんがいかつい顔にニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「なんすか! なんでここにいるんすか!」
「タバコ休憩じゃい。お前、これから小学生の案内じゃろが。しゃんとせえよ」
言うだけ言って工場の中に戻っていく。柞磨さんが苦笑した。
「黒田さん、心配してるんだよ。施設案内を一人でやるのは初めてでしょう」
「はあ。ぶっちゃけ、おれも心配です」
「大丈夫。小畑さん、入社時よりずっとしっかりしてるからね」
「いやいや、またあ。……ほんとっすか?」
「本当ですって。みんな言ってるよ。だから、今日はよろしくね。粗相のないように」
口調は穏やかだが、最後のひと言に有無を言わせない威圧感がにじみ出ていた。さすが、この業界ひと筋のベテランである。
「……がんばりまっす」
おれの眠気はいっぺんに吹き飛んでいったのであった。
ここは清掃工場。地域によってはクリーンセンターなどとも呼ばれるが、つまりはごみ処理場である。
そしておれたちは、清掃工場の運転・管理を自治体から請け負う、管理会社の社員である。
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