21人が本棚に入れています
本棚に追加
ライナ族の生活を取りまとめているのは長老と長巫女だった。長巫女は必ずしも年長の者ではなく霊力に優れた巫女が選ばれた。
政治的な概念も組織も持たないライナ族は何か問題が発生すると長老に相談し、長老が判断できない時は長巫女が占って決める。
ただ、それだけでライナ族は太古の昔から変わらぬ平和を維持してきた。
些細ないざこざはあった。
恋愛のもつれもあった。
親子のいさかいもあった。
だが、ライナ族には「悲しい」「つらい」という意味の言葉がなかったので、あらゆる悲劇は仕方のないこととして片付けられた。
言葉にできないことは記憶することが難しい。
悲劇を記憶せず、記録せず、今と未来だけを信じて命の営みに励むライナ族の平和は、星空の輝きにも似て、静かに永遠に続くはずだった。
最初のコメントを投稿しよう!