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第2話 花散らす「随心院」
原谷苑を知っているか。桜の楽園とも称されていて、知る人ぞ知る桜の名所なんだよ。君もぜひ一度行ってみるといい。そのカメラで撮影するには最高の場所だよ。
そう語る間崎教授はまるで冒険に出発する子供のようだった。大海原へ航海に行く少年のような、まだ見ぬ景色を語る主人公のような、希望と好奇心に満ちた表情をしていた。講義をしている時には決して見せない表情で話すからこそ、わたしも見てみたくなってしまう。教授の語る「美しい」を、わたしも見てみたいと思ってしまう。
京都には桜の名所と呼ばれる場所が数多くある。清水寺、高台寺、東寺、醍醐寺など、数え上げたらきりがない。先日随心院に行ったばかりだけれど、どうせならもう一カ所くらいはまわっておきたい。そう教授に告げたところ、「原谷苑」を教えてくれた。
原谷苑は、金閣寺や龍安寺よりさらに北に位置している。この2年でだいぶ京都に詳しくなったつもりでいたけれど、そんなわたしも名前すら知らなかった。まさに、教授の言う通り「知る人ぞ知る」場所なんだろう。
入口を抜けた先に見えた景色は、言葉が出ないほど美しかった。桃色のしだれ桜を中心に、黄色や白色など、さまざまな色の花が咲き誇っている。お寺や神社とは違って大きな建物がないため、歩いていくと花の海に沈んでいくような気持ちになる。京都市内では散り始めている桜も多いのに、ここではまだ満開のようだ。
「花畑みたい。すごくきれいですね」
「原谷苑にはさまざまな桜が植えられているからね。遅咲きの種類も多いんだ」
教授はそう言って、舞い散る花弁をつかむように手を伸ばした。
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