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トーストを食べ終え、店内のはちみつを見て回った。瓶に入ったもの、使いやすいスティック状のもの、リップやはちみつを使ったお酒まである。
「はちみつ酒って、世界最古のお酒らしいよ」
蜜月という名前のお酒を手に取りながら、みっちゃんが言った。
「はちみつに酵母と水を加えて発酵させるんだって。前、テレビでやってた」
「へぇーっ、そうなんだ」
教授は、はちみつ酒がすきだろうか。気づけばバレンタインも過ぎてしまった。義務ではないけれど、あたりまえのことができなくなるのは、少しさみしい。
別に、教授にあげなくてもいいし。自分で飲めばいいことだし。そう言い訳をしながら、「恋紅」というお酒をレジに持っていった。はちみつ酒はミードというんですよ。丸太町に醸造所があるので、また行ってみてくださいね。そんな話を、お店の人から聞いた。
「これ、あげる」
会計を済ませ店を出ると、みっちゃんが今買ったばかりのはちみつを差し出した。
「りんごはちみつ。おいしそうだったから、二つ買っちゃったの」
「もらってばっかりで悪いよ」
「いいから」
遠慮するわたしの手に、むりやり袋を握らせる。
「りんごはちみつは紅茶にも合うって、店員さんが言ってたの。琴子、紅茶すきでしょ」
それに、とみっちゃんが続けた。
「はちみつって、ストレス緩和にもいいらしいよ。副交感神経が優位になって、リラックス効果があるんだって」
そうなんだ、ありがとう。言いながら、わたしはうつむいた。心の中を見透かされているような気がして、同時に、そのさりげない優しさに、目の奥がつんとした。
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