第24話 人はこれを「京都御苑」

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第24話 人はこれを「京都御苑」

初めて間崎教授を見た時、なんて冷たい人なんだろうと思った。入学したばかりで浮かれていたわたしを現実へ叩き落とすような、雪風に似たさみしさを感じた。今となっては別に大したことではないし、間崎教授だけにそういう印象を抱いたわけではない。制服を脱いだばかりのわたしは、ああ、これが大学という場所で、大学教授という人なのだと思い知らされたような気がしたのだ。 高校生までのわたしは、庇護すべき対象として守られていた。家族と同居し、ご飯を用意してもらい、洗濯をしてもらい、病気になれば看病をしてもらった。家族だけではない、教師という肩書きの大人も、わたしたちを守ってくれた。知識を与えるだけでなく、必要な手続きがあれば逐一知らせ、体調が悪そうな生徒がいれば声をかけ、学業以外の相談にも乗る、第二の保護者のような存在だった。そう、わたしたちはありがたいことに、常に大人たちに気にかけてもらっていた。 そういう環境に慣れていたから、入学も祝われず、ラジオのように淡々と講義を進める教授を見て、高校生までとは違う立場になったのだと実感した。まるで舞台役者と観客のような、絶対に越えられない隔たりがあるのだと知った。 だから、教授が茂庵について話した時意外に思った。ひとりごとのようでもあり、語りかけているようでもあった。興味を引かれて、足を運んだ。 あの始まりの日を、わたしは今でも思い出す。
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