第3話 夢みるひとと「喫茶ソワレ」

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鴨川には「カップル等間隔の法則」なるものがある。その名の通り鴨川の両岸には、なぜかカップルが等間隔で座る光景がよく見られる。噂によると、論文のテーマとしても取り上げられているらしい。 わたしたちはカップルとカップルの間に腰を下ろした。右を見てもカップル、左を見てもカップル。ということは、真ん中にいるわたしたちもカップル、ということになるのだろうか。いやいや、そんなオセロみたいなことがあってなるものか。そんなことを思いながら鴨川を眺めた。 鴨川の水は透明度が高い。「鴨川の水で顔を洗うときれいになる」なんてことわざもあるくらいだ。川の中央あたりには、大きなアオサギが我が物顔で立っていた。じっと見つめていたら、アオサギもわたしを見つめ返してきた。目を逸らしたら負けな気がする。負けてなるものか。 df64d31e-64c5-4c81-98e5-e1caa405a4ce わたしがアオサギと戦っている間にも、サトウくんは滔々と話し続けた。高校時代はバスケ部だった、とか、最近体がなまってるんだ、とか、うんたらかんたら。アオサギはまだわたしを見ている。写真を撮ってやろうと思ったところで、カメラを持っていないことに気がついた。はぁ、とかええ、とかうなずきながら、カバンからそろりそろりと携帯電話を取り出す。パシャリ。シャッター音が弾けた。 「何撮ってるの」 サトウくんがひょいっと画面をのぞき込んできた。肩と肩が触れ合って、思わずぎゃっと飛び跳ねた。 「ごめんなさい、ちょっと、あの、用事が」 わたしは慌てて立ち上がり、すたこらさっさと歩き出した。まいった。これ以上はもうむりだ。ひっくり返される前に、逃げ出さねば。
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