第4話 心ひとつに「松尾大社」

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松尾大社の山吹が見頃らしい。そんな噂を聞いたので、早速行ってみることにした。腰のあたりまで伸びた髪を一つに縛り、日焼け止めを顔と腕に塗りたくる。みっちゃんいわく、真夏でなくとも紫外線対策は必要らしい。髪の巻き方、メイクの仕方、肌の手入れ。全部、彼女から教わった。そのおかげで、少しは今どきの女子大生らしくなれたかもしれない。だけどわたしはみっちゃんではないので、今日はメイクをしないことにした。1回生の時に買ったTシャツと、高校生の時から履き古しているジーンズを身にまとう。女子力も、少しは休ませないといけない。 桜が散ると、京都はいつもの色を取り戻す。静かというわけではないけれど、泡立ちが収まって、呼吸がしやすくなる。散策には、今が一番適しているのかもしれない。電車の揺れに身を預けながら、のんびりと目的地に向かう。 124b53f9-0604-4e58-aa1a-137bbe7abe87 松尾大社に到着すると、小さな山吹が幾重にも重なり、境内を黄金に染め上げていた。予想よりはるかに数が多い。今まで山吹をじっくり見たことはなかった。こんなにかわいらしい花だったのか。 a3c7ae48-4f21-4b9b-a808-ebc224e928ab 手水舎の近くには、小さな白虎の置物がちょこんと並んでいた。行儀よく前足をそろえ、まんまるな目でわたしを見つめてくる。 かつて平安京は平安神宮を中心に、北の玄武、東の青龍、南の朱雀、西の白虎が守護する「四神相応(しじんそうおう)の地」として造られた。この松尾大社は西に位置するため、白虎のおみくじやグッズがあるのだと、授与所の人が教えてくれた。 せっかくなので、おみくじを一つ買ってみることにした。白虎の顔立ちをじっくり見てから選ぶと、見事大吉を引き当てた。「心の赴くままに進むべし」と、なんともありがたいアドバイスが書かれている。こん様のストラップと白虎のおみくじを見比べてみた。色といい形といい、なんとなく2匹は似ている。 a0a0f8d2-60b0-4a13-8bc1-3dfb2339cf40 神輿庫(みこしぐら)には住吉、水芭蕉、龍力、七本槍など、全国から酒樽が奉納されていた。松尾大社は「日本第一醸造祖神」、すなわちお酒の神様として信仰を集めており、境内にある「亀の井」の水を醸造の時に混ぜるとお酒が腐らないといわれているそうだ。成人したばかりのわたしには、まだお酒のよさは分からない。もっと大人になったら、おいしく感じるのだろうか。
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