第5話 花の都に「今宮神社」

2/7
前へ
/122ページ
次へ
「さっき、全然話聞いてなかったでしょ」 あとを追いかけて尋ねると、教授は「聞いてた、聞いていました」と心のこもっていない返事をした。 「それは嘘つきの言い方です。真剣に聞いていると思ったら、お餅のことを考えていたんですね」 他の学生は騙せても、わたしの目はごまかせない。しっかりしているように見えて、案外適当なところがあるのも知っている。 「昨日、テレビであぶり餅が紹介されているのを見たんだよ。だから、今日はあぶり餅のことしか考えていない」 ひどい。発表していた学生が聞いたら怒りそうな理由だ。どれだけ労力をかけて発表の準備をしたことか。今の言葉、録音しておけばよかった。そう思いつつも、教授の心を奪う「あぶり餅」とは一体何なのか、ついそちらが気になってしまう。 「……あぶり餅って、おいしいですか」 「食べたことないのか。食いしん坊のくせに」 自然と足がとまった。ショックだった。食べることはすきだけれど、教授に食いしん坊と思われていたなんて。 「わたし、もうはたちです。そんな小学生みたいに思われるのは、し、し、心外です」 「じゃあ、食べないのか」 「何を?」 「あぶり餅。せっかく誘おうと思ったのに」 残念だ、とこれみよがしに肩を落とし、教授はすたすた歩いていく。 「食べます。食べたいです」 わたしは全速力で教授を追いかけた。 「でも、そんなにいっぱいは食べないです。一口いただけたらそれでいいんで」 「全部食べられてしまいそうだ」  
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加