第5話 花の都に「今宮神社」

3/7
前へ
/122ページ
次へ
土曜日の朝は、いつもより早く起きてメイクをした。教授と出かけるのは原谷苑以来だ。どんな服を着ていこうか前日から悩みに悩んで、結局デニムのオーバーオールにした。動きやすいし、ポケットもついているし、リュックにも合う。前日の天気予報では雨だったけれど、幸いまだ降り出す気配はない。折り畳み傘の出番が来ないことを願う。 今宮神社に到着すると、すでに教授が楼門の前に立っていた。 ea136225-d73e-4411-a455-cf6ef924515d 「お待たせしました」 そう言いながら駆け寄ると、表情を変えることなく「ああ」と応じる。すぐそばに建てられた駒札を見ると、「鎮疫の神として信仰が厚い」と書かれていた。 「『安良居(やすらい)祭は疫神鎮めの祭礼であり、京都の奇祭の一つとして知られている』ですって」 「広隆寺の牛祭、鞍馬の火祭、やすらい祭の三つが京都三大奇祭。昔の人々は、桜が散る時に疫神も飛び散ると考えていたんだ。疫病の根源を美しい花傘に集めて疫社に封じ込めようとしたことから、『花鎮めの祭り』ともいわれている」 「へぇー、おもしろいお祭りですね。見てみたいなぁ」 「君はいつも元気そうだな。風邪とかひかないのか」 「小学生の時以来ひいたことないです」 「やっぱり」 「何がやっぱりなんですか」 なんとなく言いたいことは察したが、あえて気づかないふりをした。世の中には、知らぬが仏という言葉もある。 目的はあぶり餅だが、その前にまずはお参りだ。天候のせいなのか、境内にそれほど人はいなかった。これならゆっくり写真が撮れそうだ。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加