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その後も境内を歩き回ったが、なまずはなかなか見つからない。そもそも本物のなまずなのか、なまずの形をした何かなのか、桂昌院のようなレリーフなのかも分からない。この広い境内で見つけるのは至難の業だろう。そうこうしているうちに、また入口近くに戻ってきてしまった。
「なまず、全然見つからないです。本当にいるんですか」
「いるいる。絶対いる」
教授は適当な返事をしながら、一つの摂末社に近づいていった。
「ここは宗像(むなかた)社。素盞鳴尊(すさのをのみこと)の十握剣(とつかのつるぎ)から生まれた宗像三女神を祀っているんだ」
「宗像三女神?」
「多紀理姫命(たきりひめのみこと)、湍津姫命(たぎつひめのみこと)、市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)。弁財天と同一視され、『弁天さん』とも呼ばれている」
「弁財天なら知っています。美の女神様ですよね」
カメラを構え、写真を撮る。なんとなく社殿の台石に目をやった途端、あ、と声が出た。
「見つけました、なまずがいます!」
「よく見つけたね」
そこにはうっすらと彫られたなまずがいた。ひとりだったら絶対見落としていただろう。
「でも、どうしてなまず?」
「なまずは古くから弁財天の使者とされているんだ。弁天なまずって知らないか」
「聞いたことないです。なまずよりうなぎの方がすきなので」
「食べ物の話はしていない」
空腹がピークを迎えているのか、食べ物のことばかり考えてしまう。これでは食いしん坊と言われても反論できない。すぐ近くの東門をくぐり抜けると、両側に店が二軒向かい合っていた。
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