プロローグ:手記

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 かつて、俗に言う魔王討伐(とうばつ)に失敗した俺は、世界の人間から敗者の烙印(らくいん)をいとも簡単に押された。  文字通り力を失った俺は、人間どもにエルフの谷の奥深くに封印された。  なぜそんなことをされたかって?  答えは簡単だ。人間どもが俺を恐れたからだ。俺が魔王の討伐に失敗したことで、実は魔王の手下ではないかと考える者まで現れた。  俺は力を失った。逆に魔王はさらに力を付け、人間どもを見事制圧した。魔王の怒りを買って滅ぼされた種族や部族も一定数いるが、大部分は生かされ魔王軍の監視下、管理下にいる。  そうだ、この世界ではあの魔王が完全に実権を握っている。  もはやこの世界は人間の世界では無くなったのだ。  サキュバス・リリーは俺と俺の一族だけは助け優遇した。直属の配下として利用するためだ。 「あなた達の待遇は厚くしてあげる……私の為に働きなさい」  こんな時にこう言うと不謹慎かもしれないが、彼女はかなり綺麗な容姿の魔族の女だ。嫌いじゃない。  とにかく、俺は彼女を殺せなかった。  惑わされ美しいその姿に見とれてしまい、とても殺すなんてことは出来なかったんだ。  俺の愚かさがこの現状を招いてしまった。  この世界で一人、俺はどうすることも出来ない。  別の世界にいる友に会いたい。  もう二度と会えないとしても、やはり君たちにもう一度会いたい。  あと……俺の唯一(ゆいいつ)無二(むに)の親友、マキノにも。 記:ネミルスフランク・スズキ
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