化石掘り

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「やれやれ。まるで白亜紀の地層でも掘ってるような気分だな」  足元に散らばったゴミをゴミ袋に突っ込みながら父さんがぼやいた。同感だな。本当に白亜紀の地層を掘ったら楽しいだろうけど。  高校二年の冬、年が明けて間もなく俺のおじいちゃんが死んだ。老衰だったらしい。そろそろ受験に向けて勉強しないとって毎日机に向かっていた時に来た訃報。本当は勉強しないといけないのはわかってたんだけど、おじいちゃんの家が売り出されるって聞いたから、最後くらいは行っておいた方がいいのかなって。それで父さんと一緒に新幹線と電車を乗り継いで遺留品の整理にやってきたんだ。  正直、後悔してる。おじいちゃんの部屋、信じられないくらい散らかってるんだ。文字通り足の踏み場もないし、テレビで見たゴミ屋敷って感じ。床に食べ物のゴミがないのと、家の外は綺麗だったからまだマシだけど、こんな汚い部屋で人が生活してたなんて想像出来ない。写真撮ってTwitterに上げたらそこそこバズるんじゃないかって思うくらいだ。やらないけど。  ひたすら、げんなりするような大量の物を手に取ってはゴミ袋に突っ込む単純作業。白亜紀の地層だなんて冗談でも言ってなきゃ、やってられない。 「お袋がいた頃は、こんなに散らかすような人じゃなかったんだけどな」  満杯になったゴミ袋を縛りながら、父さんはポツリと呟いた。  おじいちゃんの家は俺の家からはかなり離れてる。地方で育った父さんが大学進学を機に上京して、そのまま母さんと結婚したからなんだけど。おじいちゃんとは夏休みや年末年始に、父さんに連れられて家に遊びに行った時に会っただけ。これといった思い出も少ないし、家族っていうより遠い親戚って感じ。  父さんの話だと、おじいちゃんは若い頃、地元の町工場で職人をしてたらしい。曲がったことは許さない厳しい人で、趣味は将棋とゴルフ。ちゃぶ台をひっくり返すなんてことはなかったらしいけど、凄く気難しい性格で、父さんが若い頃は喧嘩ばかりだったって聞いた。怖い人だったのかな、おじいちゃん。 「いつからこんなに散らかるようになったの?」 「おばあちゃんが死んで一年後には散らかり始めてたな。まぁ、軽い認知症だったから」 「え? 認知症?」 「軽い、な。別に子供を呼び間違えるとかはなかったし、ちょっと物忘れが多い程度だったけど。父さんもあんまり面倒見てやれてなかったが、まぁこんな有様だし、末期はそれなりに来てたのかもな」  認知症か……。俺には何も言ってなかったけど、おばあちゃんが死んでから、父さんがよくここに通うようになったのもそのせいだったんだ。
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