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地層については中学の授業で習った。地層は百年で一センチっていう途方もない時間をかけて作られる。埋まった化石はいわば天然のタイムカプセルだ。授業で聞いて、俺は物凄く想像したのを覚えてる。
地層を形成した土は、狩りをしようと走るティラノサウルスが巻き上げたものかもしれない。
土埃を上げて吹き渡る風の中を、プテラノドンが飛んでいたのかもしれない。
土に封じられた植物の跡はブラキオサウルスの食べ残しだったのかもしれない。
そんなことを考えてると、最初はバームクーヘンみたいで美味しそうって思ってた地層のシマ模様にも命のドラマが詰まってる感じがして興奮したんだ。だって、凄いじゃないか。百年しか生きられない人間の俺でも、土を掘るだけで何億年も前の物に触れられるんだから。
おじいちゃんの家も同じなんだ。この部屋を埋め尽くしてる大量の物は元々ゴミなんかじゃなかった。今は埃まみれの服だって、おじいちゃんは着てて、ご飯を食べたり買い物に出掛けたりしてた。写真だっておじいちゃんが取っておいてくれてたからここにあるんだし、よく見れば指紋で汚れてるから、何度も見返してくれてたってわかる。全部が全部、おじいちゃんの生きた証で、おじいちゃんがいたことを示す化石なんだ。
ここはいわば、思い出の地層の中。目に見えなくても思い出は降りつもって、物という形を残しながら、時を圧縮する。
──そう思ったら、急に不安になってきた。
「父さん、ここにあるの、本当に捨てていいのかな?」
「ん? なんで?」
「だって、おじいちゃんがいた過去をなかったことにしてるみたいだ。本で読んだことがあるけど、人って二回死ぬんだって。一回目は体が死んだ時。二回目は人の記憶から消え去った時」
「はは、理系にするっつってたが、えらく文学的だな」
「理系だって小説くらい読むって」
「それもそうか。別にいいんだよ。お前が気にすることじゃない。そりゃあなんでも覚えてた方がいいだろうが、お前はこれから色んな人に出会って、色んな人と思い出を作っていく。全部覚えていようとしたら頭がパンクするぞ」
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