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「でも、それって冷たくない? 俺、おじいちゃんの孫なんだよ?」
「まぁ、何も綺麗サッパリ忘れろって言ってるわけじゃねぇんだ。なんつーか……あれだ、化石とおんなじだよ。化石だって上手いこと乾燥した場所で綺麗に体が朽ちて、地殻変動で海の底に沈んだり潰されたりせずに済んで、そういう幸運に幸運を重ねた奴だけが後世まで残る。そういうほんのちょっとの情報から昔のことってのも随分とわかるもんだ。だからな」
父さんは俺がぶちまけた写真の中から可愛らしい縁取りがしてある一枚を拾い上げる。恐竜博物館の撮影スポットで撮った物だ。遊園地のジェットコースターなんかで買える、一枚何百円もする記念写真で、小さな俺とおじいちゃんが写ってる。
「アルバムに入れてた気もするが、ほら、持ってけ。今日の出土品。な?」
「……うん」
なんで物を捨てると変な気持ちになるのかわかった。俺は無意識のうちに、ゴミを捨てる度におじいちゃんのいた証が無くなるのを理解してたんだ。おじいちゃんのことなんて全然考えたことなかったのに、変な話だな。死んだ時でさえ泣かなかったのに、今更忘れたくないなんて。
ああ、写真を見てたらぼんやり思い出した……気がする。写真の俺が握りしめてるの、化石発掘体験コーナーでもらった玩具だ。忘れてただけでこの日はあったんだな。おじいちゃんの家っていう思い出の地層が、大事に大事にこの時間を取っておいてくれた。
「おいおい、そろそろ頑張ってくれないと、本当に日が暮れちまうぞ」
「あ、ごめん」
写真を持ってきたリュックの中にそっとしまう。大丈夫、おじいちゃんのことは忘れない。俺、大事なことを思い出したから。
◇
それから、父さんと俺は黙々と荷物をゴミ袋に詰めて軽トラックに積んだ。この袋は全部ゴミ集積所に持っていく。そこで綺麗サッパリ処分されるんだ。おじいちゃんの家も間もなく売りに出されて、本当に何もかもがなくなる。
借りてきた軽トラックにゴミ袋を積んだ後、父さんは暫くおじいちゃんの家を見上げてた。多分、最後に生まれ育った家を目に焼き付けておきたかったんだ。俺もなんとなく父さんに倣って落ち着いた色合いの平屋を隅々まで見た。
「今日はついて来てくれてありがとな。父さん一人じゃあ終わらなかっただろうし、手伝ってくれて助かったぜ」
「うん」
「あー……そろそろ行くか。新幹線の時間も近いし」
「うん」
トラックに乗り込むと、父さんがエンジンをかけて発進させた。安さ重視で借りた軽トラックはいかにも中古って感じの危なっかしい振動を立てて、人気のない住宅街を進んだ。
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