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「父さん、あのさ」
「ん?」
「やっぱり俺、地学は選択したい」
「地学? なんでまた?」
「えっと……古生物の勉強、してみたくなって」
「化石発掘ごっこしてたこと、思い出したからか?」
「うん。おじいちゃんとの思い出も大事にしたいし」
ふぅんと父さんは気の抜けた声を出しながらハンドルを切った。大通りに出るとすぐに交差点に差し掛かって、トラックは赤信号の前でゆっくり止まった。
「やっぱり、反対する?」
「いや。地球科学科のある大学ってどこだったかなって思ってただけだ」
「古生物って地球科学科で勉強するの?」
「ああ。実を言うと父さんも地球の話が好きで、お前くらいの頃はそっちの道も考えてたんだよ」
「え? そうなの?」
「まぁ結局、仕事に繋がる分野に行けっておじいちゃんに言われて、インフラ系を選んだんだけどな」
「知らなかった」
「しかし因果なもんだな。血は争えないとは言うもんだが」
鼻を掻きながら、父さんはにやけ顔を我慢するような変な表情を作った。
「古生物専門じゃあ、仕事にならないかな?」
「ま、大学の勉強が就職の全てじゃない。父さんもインフラの勉強してたはずが、いつの間にか素材開発チームに配属されてたしな。やりたいことはやりたいうちにやっておけ。アカデミックの道に進むかどうかってのも、やってみなけりゃ決められないだろう」
「それじゃあ……いいの?」
「父さんは選ばなかった道だからな。とはいえまずは受験を突破することからだ。自分でやりたいって決めたんだ。頑張れよ」
「うん!」
信号が青になる。父さんはトンとハンドルを指で叩いてアクセルを踏んだ。
「それともう一つお願いがあるんだけど……。おじいちゃんの話、聞かせてほしい」
「ええ? 別に普通の話しかねぇぞ」
「いいよ、普通で。俺、よくおじいちゃんのこと知らなかったって思ったから。今からでも知りたい」
「ったく……妙なことに興味湧かせちまったな。わかったよ。この車の中だけだからな?」
「ありがとう」
トラックは車のまばらな大通りを快調に進んでいく。ふとバックミラーを見上げてみると、荷台に積まれたおじいちゃんの荷物が眩しい夕陽に染まって静かに揺れていた。
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