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環は母に似て美人だった。
小学校でも、中学校でも当然のようにモテたし、告白して来る女の子もいた。
母の職業を揶揄ってくる同級生もいたが、母を誇りに思う環には何の意味も持たなかった。
環は母がいれば満足で、それ以外は何も望んでいなかった。
ある日、環が帰宅すると、明子は客の相手をした後の休憩中だった。
プライベートの空間で穏やかに眠る母に布団をかけ直し、環はダイニングで宿題を始めた。
一時間も経たないうちに、玄関の扉が音を立てて開く。
この部屋の鍵を持っているのは母と環を除いて一人だけだ。
そこにはブローカーの男が立っていた。
「環くん、お母さんいる?」
「こんにちは。お母さんは寝てるよ」
「そっか……」
男は環の返事に眉を下げて切なそうに笑った。
何か用事だろうか。
環の認識では給料日まではまだ日がある。
ブローカーの男は、背後から一人の男を招き入れた。
見たことのある顔だ。
普段母が客を取るときプライベートルームにいる環であるが、客が訪ねてくるタイミングによってはダイニングでかち合ってしまうことがあった。
その男は、一ヶ月ほど前にこの部屋に来た客だった。
「ごめんなぁ」
ブローカーの男はそう言って、環を母の仕事部屋に連れて行った。
わけのわからないままに服を脱がされる。
客を残して、ブローカーは部屋を出た。
そして環は、母と同じ、汚いものになった。
「い、いやあああああああああああ!!!」
次に環が気がつくと、半狂乱になった母がブローカーの男に羽交い締めにされていた。
客はすでにおらず、ベッドの上には環一人だ。
腰が痛み、体中がべたべたとしていて不快だった。
「なんで! なんで環が!」
「アカリちゃんごめん! 逆らえなくてごめんなあ」
アカリは母の源氏名である。
ブローカーは母を呼びながら必死で母を宥めていた。
ついに母が床に崩れ落ちる。
啜り泣きだけが部屋に響いていた。
「お、かあさ……」
伸ばした手は、母にはたき落とされた。
環はただ、頑張った自分を褒めて欲しかっただけだった。
「きたない」
母はその時初めて環を汚いものを見る目で見た。
「汚い。環が、汚い。環も、汚い。汚い、汚い」
母は虚ろな目でそれだけを繰り返した。
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