その腕で、触って

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その腕で、触って

 智也は一人、混乱の最中にいた。  教室。  乱れた制服。  環。  その全てが交互に頭にちらついて、手洗いに少しも集中出来ない。  何度目かわからない動作で泡を流して、満足出来ないままに再度ソープを手に擦り付ける。  わかっていたはずだった。  環が、平然とセックスするような男だと。  あまりにも環が、智也の前でそういう素振りを見せないから、勘違いしていた。  智也から見る環の奔放さは、所詮中庭の光景と、友人から齎される情報だけで。  直接的に視界に入ったのは、先日の肩口の歯形が初めてだった。  それが、こんな形で、理解されられるなど。  智也は何故かぼんやりと滲んだ視界に戸惑いつつ、必死で手を洗い続けた。  満足できないままにシャワーを頭から浴びて、全てを記憶ごと洗い流そうと試みる。  脳裏にここ数ヶ月一緒に過ごした環の笑顔が再生されては消えた。  料理を作る環。  洗濯物を畳む環。  智也がありがとうと言うと、環は照れたように笑った。  風呂上がりの火照った肌。  眠そうに瞼を擦る顔。  歯形のついた首筋。  乱れた制服と、埃っぽい床。  綺麗な思い出が、汚い映像で汚されていく。  ぐっと、唇を噛んで俯くと、智也の中心は熱を持って勃ちあがっていた。  そろそろと手を伸ばして、赴くままに握り、上下に擦る。 「は、……っ」  吐息が漏れて、体温が上昇した。  自分の声さえも、脳内でいやらしいものに変換される。  鏡に頭をついて、うなじにシャワーの水流を感じる。  背筋を流れる感覚でさえ刺激になって、びくりと智也は体を揺らした。 「た、まき……っ」  吐き出した液体が、自分の手のひらを汚している。  汚いのは、自分だ。  智也は自分の中に渦巻いた感情ごと、その場に胃液を吐いた。
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