その腕で、触って

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 次の日、智也は環と顔を合わせないままに、いつもより早く登校した。  環が持ち帰ったのだろう鞄はリビングのテーブルにそっと置かれていて、いつものように冷蔵庫の中に弁当も用意されていた。  どんな気持ちで環はこれを用意したのだろう。  智也は炊飯器から米を弁当箱に詰めて、環の作ったおかずの段と重ねると、巾着に詰めて家を出た。 「あれ? 智也早いね」 「おはよう」 「おはよ。……どうした? なんか悩み?」  颯太が通りがかりに智也に挨拶をする。  目敏く智也の眉間の皺に気付いた颯太は、声を潜めて智也に耳打ちするように話しかけた。 「……昼休み、相談に乗って欲しい」  真剣な顔をした智也に、颯太は二つ返事で了承し、席を離れていく。  授業開始間際、環が隣の席に座った。  ふわりと香ったのは、智也のお気に入りのボディーソープ。  智也は落ち着かないままに、午前の授業を受けた。 「で? 《カレシ》と何があったんだよ」  智也を屋上に連れ出した颯太は、開口一番に環の話題を出した。  思わず弁当箱を取り落としそうになる。 「な、なんで環だって気付いたんだよ……」 「うーん、勘? って言いたいところだけど……」  颯太が意味深に言葉を区切ったとき、徐に屋上の扉が開いた。  顔を出したのは隣のクラスの女子生徒だ。  天野 真奈美(あまの まなみ)。  学年の女子をまとめている中心的存在である。  見た目はふわふわとした大人しめの生徒であるが、何故かあだ名は女帝。  図書委員である彼女とは、図書館で顔を合わせるくらいの関係性だ。 「あ! いたいた〜」  その彼女は、颯太と智也を見つけると、手を振ってこちらに近づいて来た。  意味がわからずに智也は身構えた。  真奈美の手には二つの弁当箱。  その一つは颯太に手渡された。 「相原くんこんにちは。颯太の彼女の天野真奈美だよ。悩める相原くんの助っ人に来ました!」 「待て待て待ていろいろ追いつかない。颯太の、彼女?」 「うん、言ってなかったっけ?」 「聞いてない!」  ここに颯太以外を呼んだのも初耳なら、颯太に彼女がいたのも寝耳に水だった。  しかも相手は女帝である。  戸惑う智也に、颯太は何でもないことのように話を続けた。 「俺の情報って、真奈美からのまた聞きがほとんどだからさ。今日は来てもらったってわけ」 「相原くんって今、《カレシ》にご執心なんだって?」 「その情報は一体どこから……」 「んー……《カレシ》の彼女たちからかな」
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