新しい、日常

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新しい、日常

 それから。  環との共同生活は思ったよりも上手くいっていた。  環が智也の定めたルールをけして破らなかったこともあるが、意外にも環が家事が得意だったからだ。 「お前、料理できるのか」  それは同居を始めて次の日のことだった。  委員会の仕事を終えて帰宅した智也を、環が料理を作って迎えたのだ。 「もー、智くん。環だってば」  拗ねたように頬を膨らます環の服は、黒のスエットだ。  風呂にもきちんと入ったらしい。髪がわずかに湿っている。  約束を守った環にやや感動して、智也は興奮気味に再度問いを重ねた。 「環、この料理は……」 「んー……お母さんが料理出来なかったからねえ」  母子家庭で育ったという環は、父親の顔さえ知らなかった。智也の両親に引き取られたというのも、母親が亡くなったからだという。  環の孤独を垣間見て、智也は憐れみを胸に抱いた。人肌を求めるのは、寂しいからかもしれない。  いや、かといって高校生が不特定多数と淫行するのは如何なものか。  智也は胸によぎった感情を無理やり追い出した。 「俺の作ったのなんて食べたくなかったらいいよ」 「いや、食べる」  即答した。  けして豪華ではないが、家庭的な料理がどんどん出来上がっていく。  味も申し分なく、それから料理の担当は環になった。言うまでもなく掃除の担当は智也である。 「え?! 智也が弁当?!」  教室で環が作った弁当を広げると、食事中に近寄ってこない友人が珍しく食いついてきた。 「食事中だ、埃が入る」 「いやいやそんくらいいいだろ」  智也は弁当箱を一度閉じて友人と向かい合った。  島津颯太(しまづ そうた)は智也の数少ない友人の一人である。  智也の潔癖を受け入れ、それでも付き合ってくれる心の広い男だ。 「色々あってな」 「その色々が知りたいんだけど。もしかして恋人出来た?」 「恋人にはなってない!」  智也は弁当箱の蓋を押さえて、ややかかり気味に颯太に反論した。  環が教室で昼飯を食べないことに内心感謝する。弁当の中身が一緒だとばれたら何を言われるかわからなかった。  そんなことを考えていた智也は、環の所在に気を取られて自分の失言に気付かなかった。
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