新しい、日常

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 智也は颯太の話を思い出して思わず眉を顰めた。 「……今日、女と修羅場した話を聞いたが、父さんたちがいない時にそういうことをしていたのか」 「家には呼んでないよ? 智くんはそういうところ気になる? ケッペキだから?」 「潔癖は関係なく、あまりいい気はしないな」  あっけらかんと言う環に、ここは価値観の違いか、と智也は自分を落ち着けた。 「なんで智くんは潔癖になったの?」 「……祖母が、厳しかったんだ」  智也は核家族で両親の祖父母とは同居してはいなかった。  長期休暇の時に両親に連れられていく程度の関係性で、内向的な智也はなかなか祖父母に馴染めなかった。 「母さんの実家に小学校の時に遊びに行っててな。庭で遊んで泥だらけになって家に上がったら……」  あの時の祖母の剣幕は未だに忘れられない。  畳を汚した智也を見た祖母は、大きな声で智也を怒鳴り、そのまま引きずって外の手洗い場に連れて行った。  頭から水やりのホースで水をかけられ、服を脱がされて、石鹸で綺麗になるまで体を洗われた。 「綺麗にしないと家に入れない、と染み付いて……まあ、一種のトラウマだな」  夏だったから良かったものの、アレが冬だと考えるとゾッとする。  母に見つけられた時、智也は顔面蒼白で、それ以来、祖母の前では綺麗にしていないと怒られると気が気でなかった。 「それから、誰かにまた怒られるのが怖くて、いつも綺麗にしているように気を付けていたら……今の俺の出来上がりだ」 「そっか……ちょっとわかる気がする」  智也の思い出に共感するところがあったのか、環は目を伏せて、小さく俺も……と言った。 「俺にはお母さんしかいなかったから、お母さんに怒られないように、お母さんの負担にならないようにって、ずっと……考えてたなあ」  しんみりとした空気が流れるが、不思議と気まずくない。 「まあ……今は俺がいるから、寂しくないだろ」  環がきょとんとして智也を見つめ返した。  耳が熱い。  柄にもないことを言ったと自覚して、顔に熱が集中する。 「ん……そう、だね」  環が嬉しそうに笑って、夕飯に箸をつける。  先程までより満たされているのを感じて、智也も続いて箸を伸ばした。
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