金の世界

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「全くひどいな。今日もこんなに積もるのか…。」 目の前に広がるのは金色の地面。そう、金色なんて表現をしたが本当に金なのだ。化学記号Auの金そのものである。 「ついこないだまではこれをみんな手が出るほど欲しがったのだけれどもねえ...」 そう、この金は金そのものであるが価値はない。いや、価値がないどころか害悪そのものだ。 降り積もる金。それは日常生活に大きな支障をもたらしたのだった。金は非常に安定した物質だ。ちょっとやそっとじゃなくなるような物質ではない。 ましてや電気を良く通す。以前はその性質ゆえに電化製品には必須だった。それゆえ以前は価値があったのだが、今では逆だ。電気を良く通すゆえに問題が多い。様々な電化製品の故障の原因になる。2070年現在、自動車の主流は電気自動車であるがこれは全てこの金によって駄目になった。それどころか送電網も全て駄目になった。 世の中はこの突然降り積もる金によって大混乱を引き起こしていたのである。 金が降り積もりだしたのはつい最近の話だ。それまでは世の中の多くが、突然金が降ってきたらよいのにな。なんて思っていたものだ。その金というのはおそらく金券(所謂紙幣)なのであろう。もしくは金のインゴットか。いやいや、インゴットが落ちてきたらそれこそ凶器で死んでしまうな…降ってくるなら金の粉だろう。なんて冗談を言っていた。 しかし、世の中の誰か、どこかのとても非現実的な誰かが何らかの方法を使ったのだろう。それも小説や漫画のような人間が何かをしたのだろう。ある日、突然金が降りだしたのだ。 それも金の粒がまるで雪のように降り出したのだ。最初はみんな驚いて、そして夢じゃないかしらん。と興奮しながらかき集めたものだ。だが、その日のうちにみな冷静になった。金というのは希少であるから価値があるのであってこんなにたくさんあれば全く無価値なのではないかと。すると皆、集めた金を捨て始めたのだった。 この現象により、金の価格は大暴落をした。その日は全国各地で自殺者が出ることになった。 翌日からはある問題が発生した。金はその日も降ってくる。そして降り積もる。金は雪のように解けることもなく街中を砂漠のように埋め尽くした。 金は履いても履いても減ることもなく埋めても埋めてもそのままであった。金はその安定性ゆえに永遠の輝きを持つから元々希少とされたのであったのだ。永遠の輝きは永遠の汚れとも同格である。町は金で埋め尽くされ、太陽の光を反射し、サングラスなしでの生活は不可能となった。すぐに金はゴミよりも厄介なものとなった。熱を与えてもなかなか状態変化をせず、溶かしたとてその性質を失わず溶かすための酸が強酸であるので捨てることのできない金は厄介なゴミになった。 金を捨てないでください。の立て看板が町を埋め尽くし、金の買取価格はもはや買い取って頂く為に金(紙幣)を払うという現象になった。紙幣はあくまでも金券という金融社会においてこの矛盾は笑える話ではある。が、笑えなくなっていった。金の暴落は社会すべての不安定へとつながった。そして、金が降り積もることにより日光の阻害をされた植物は育たず、金の重さにより建物はつぶれていき、金が覆った港は使い物にならなくなっていった。そして世界情勢は不安定になった。 金を所有していた富豪は没落し、経済は混乱し企業は次々と倒産した。 金によってダメージを受けた食料資源は枯渇し、生き残りをかけた国家間は戦争をするものだと皆思ったのだ。しかしそうはならなかった。この時代、世界は電子制御の兵器が多くを占めていたのだがそのすべてが金によって使い物にならなくなっていったのだ。世界は戦争を回避したが、それぞれの国でそれぞれの人間が生き残りをかけた内紛が起こった。秩序は崩壊しそして隣人が敵となったのだ。 この間僅か2週間である。 降金量は減っていき雪のような自然現象となっていった。が、雪とは違い溶けない金は積もり続け、それを解決しない限り我々は滅亡を待つ身となったのだ。 今日も今日とて金の掃除だ。昨晩の降金量はそんなでもないが集めると量は多い。この金の掃除は国民(もはや国として機能しているのか怪しいが)の義務となっていった。 この金は掃除をする事により仕事を行ったとされ、この金と国が管理することとなった食料品と交換してくれるのだ。皮肉なことに、金が金銭としての役割を果たしてくれるのである。しかし、金そのものの価値はもうない。あくまで仕事の量としての換算なのだ。 そして、この金は仕事量として換算されることから再び金銭としての役割を果たしたのだ。 誰がどれだけ回収するかの規定量は個人個人で決められているわけではないのでこの金を他人と交換することで物々交換を果たすことになった。他人の雑貨が欲しい時は他人に仕事量の金を渡すことでその雑貨を貰う。そのような行為が自然と行われるようになったのだ。人々は安心のために、貯“金”をするようになった。 元々の貨幣はこの物々交換のしやすさを目的としているとするのであればこの方法が根付くのは国の文化の回復を、社会性の回復を示しているのかもしれない。 私は家の周りの金を集めて国の収集車に渡し、そして僅かな食料を貰った。 世の中は、人類はどうなっていってしまうのか。私は黄金にまみれた世界を見ながらその末を憂いだ。 景色だけは金色に輝く幻想郷であった。
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