降雪ノーツ

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 幸せだった頃の思い出を麗らかな春に例え、振り返るAメロのターンはゆったりと。  それから裏切った恋人に対して嘆き、もう愛していないのかと問うBメロのターンから激しくなり。  一気に増えたノーツはさながら強くなっていく雪の降り具合のように思えた。  だけど、私もここで負けていられない。  両指全体の反射神経と記憶を総動員して、ノーツに食らいつき叩く。  叩いて、叩いて、叩いて――  いよいよ全ての想いを解き放たれるサビのターンに入り、高揚していた気持ちが更に昂っていく。  恋人に裏切られた悲しさと、もう戻れないのだろうかと願わずにはいられない悲しさが一層際立って。加えて曲のジャケットセンターを務めた“彼”の切なげな眼差しを思い出し、私まで胸が苦しくなっていく。  鼓動が激しくなっていくのは、きっと激しさも数も倍増したノーツのせいだけじゃあない。  ノーツを叩き対応していく度に、“彼”と共に歌っているような錯覚さえ覚えているせいだろう。  そんな半分五里霧中状態ながらも、お構いなしに降ってきたノーツ全てになんとか対応し切れて。  詞を歌い終えようとする“彼”の声が響き流れる。  あぁ――もうすぐ終わる。これで、やっと……  と思いながら、ゆったりとしたラスサビのノーツを叩こうとした瞬間。  指が上手く動かず、最後のノーツが虚しくすり抜け墜ちてしまった。
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