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自分の部屋に戻ると、ライムはゲージの中でブランコに乗り楽しそうに揺られていた。
ゲージの扉を開けて手を差し出すと、すぐ手に乗ってきた。
かわいい。
哀しいほどに、かわいい。
僕はライムに頬ずりすると、ライムも僕に頬ずりした。
何度も何度も、何度も何度も、僕らは頬ずりしたり、キスしたり、撫でたり、突き合ったりして愛を交わした。
僕はライムのために、数種類の野菜や果物を買って来た。
シャインマスカットの皮を剥がして手に乗せるとライムはすぐクチバシを突っ込んで汁を吸っているようだった。
にんじんを薄くスライスして手に乗せるとライムは喜んで啄んだ。
なんてかわいいんだろう。
僕を信用してくれたかな。
ただの食欲かも知れないけれど、僕は満足してライムの一挙一動に感動していた。
一度にいろいろ食べさせて、お腹を壊してはいけないと思い、すべて恐る恐るだ。
僕は部屋のあちこちを自由に楽しむライムの姿をスケッチした。
ライムの行動を観察し、より快適な生活空間を演出してみたいと考えた。
部屋には、ライムが止まる枝のようなものが何もないことに気づく。
平らでツルツルした面は小鳥には不安定だ。
つかみどころのない綿素材の布団カバーよりモコモコした毛布の方が安定するようだ。
僕は夕方、近くの河原へ行き数本の小枝を集めて来た。
ダニがついていたら困るので、外で表皮を剥き丁寧に紙ヤスリをかけた。
家に戻ると念のため風呂場で熱湯をかけて消毒し、引っかかりがないか慎重に点検してから棚の隙間に挟み込んで固定した。
ライムはすぐに飛んで来て止まった。
キョロキョロと部屋を見渡し、チョンチョンと枝を移動しながら枝の様子を伺っているらしかった。
やがて枝が安定していることを確かめ終えたのか、安心したように枝先でピュルルルと歌を歌っている。
良かった。
僕は嬉しくなって笑った。
僕と僕の部屋が、今はライムの世界のすべてなんだ。
もっともっと住みやすく楽しい環境を整えて、僕はライムに愛される恋人になりたい。
どんな強敵が現れようと、ライムが僕と僕の部屋を選んでくれるように僕は力を尽くそう!
ああ、まるで僕はインコの気持ちになり部屋中を点検した。
目を皿のようにして、危険がないか、不潔な場所はないか、足りないモノはないか。
ふと、事務長に言われた言葉を思い出す。
僕は神経質過ぎると。
細かいところまで気がつくのはいいが、考え過ぎず、黙ってないでハスの花のような明るい言葉を咲かせなければ!
「ライム!どうだ?快適か?」
思い切って声をかけてみる。
ピチュ ピチュ ジュルルル・・
意外にもライムは応えてくれた。
ライムは僕の言葉を待っていたのかも知れない。
「そうか・・良かった。ごめん。僕、知らなかったんだ。お前は人間の言葉がわかるんだな。僕の言葉を待っていたんだな。」
ピチュ ピューッ チチチ
チュッ チュッ ジュルルル・・
「あははは いいな。よし。今度から頑張って、いろいろ話しかけるからさ。よろしく頼むよ。」
ピピピピッ ピチュ ピピッ
こうして僕は、ライムに教えられながら、少しずつ、誰かと同居する楽しさと気遣いを学び始めた。
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