小さな恋人 For Happy Valentine’s Day

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 ある冬の朝。  コツコツと微かな音がして目が覚めた。  何か小さな硬いものが、どこかに当たっているような音。  ベッドから抜け出してカーテンを開けると、この地方には珍しく薄っすら雪が積もっている。  寒い。  僕はとりあえず身支度して、パネルヒーターの温度を上げる。  コツコツ コソコソ     微かな音は窓の外から聞こえてくる。  窓の周辺をよく見ると、窓辺に薄く積もった雪にまみれて黄色っぽい小鳥が動いている。  コツコツ  小鳥が窓ガラスを(つつ)いている。  どうしたのだろう。  これは自然界で暮らす鳥ではないな。  どこからか逃げて来たのだろうか。  間違って外へ飛び出し、迷ってしまったのだろうか。  いずれにせよ、寒いだろう。  こんな小さな体では、寒さが堪えるだろう。  僕は、小鳥が逃げてしまわないように静かに、そーっと窓を開けた。  それでも小鳥は驚いて、バタバタと飛び上がったかと思うと僕の髪をかすめて部屋の中へ飛び込んだようだ。  僕は窓を閉め、その場で動かずに部屋の中のどこに小鳥がいるか目で探した。  僕の動きに驚いて小鳥が飛び回り、ケガをしたら大変だと思ったからだ。  小鳥はなかなか見つからなかった。  おかしいな。  確かに部屋の中に飛び込んだように思ったが、そのまま外へ飛んで行ってしまったろうか。  僕は窓辺に立ち尽くしたまま、しばらく目だけ動かして小鳥を探し続けた。  ハッとする。  何かが僕の頭の上で動いた。  そうか。  小鳥は僕の髪をかすめて部屋の中へ飛び込んだのではなく、僕の頭の上に止まったんだ!  あははは  僕は思わず笑った。  これじゃ目で部屋をいくら探しても小鳥が見つからないはずだ。  僕は、頭を動かさないように、そーっと歩いて鏡の前へ行った。  黄色と緑と赤いクチバシを持つ美しい小鳥が、澄まし顔で僕の頭に止まっていた。 130f54b3-a825-45c7-8c5c-39707f1b9d2c
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