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知らない電話番号だ。
僕は画面を見ながら迷い続けたあげく電源を切った。
切った瞬間、ムカムカした。
何をやってるんだ!
僕は自分が情け無い。
半月後に開催するイベントの準備も急がなくてはならない。
自分が何年も前から時間をかけて企画してきたイベントで『飛べない鳥』の中から青系の色のものだけを集めた展示企画。
『青というロマン
〜 幾千の青に込められた祈り 〜』
青さを構成している成分。
青が聖なる色になった経緯。
青の波長が身体にもたらす作用。
青にまつわる歴史を紐解きながら、我が宝箱に眠る青い飛べない鳥たちのルーツを探り羽ばたかせてみようという企画だ。
そのイベントを子どもたちと共に楽しむためのプログラムもいくつか用意してある。
『青が似合う動物ぬりえコンテスト』
22色の青系の水彩絵の具だけを使い
ゾウ キリン ウサギ ダチョウ
ネコ イヌ ワシ ニワトリ などを
彩色する
『自然の中の 青い宝石 発見コンテスト』
自然の中から美しい青を探して
写真や絵に表現してみよう
『青かったら すごく変なもの
〜 発見・発明コンテスト!』
人間の肌が青かったら?
学校の机が青かったら?
青かったら 変なもの なーんだ?
どのイベントにも問い合わせは多く、全国の小中学校や幼稚園などが既に続々と応募表明してくれている。
また最近では高齢者、障害者等の福祉施設からの応募も増えている。
ネットでの応募が中心なので海外からの問い合わせも多い。
学芸員は僕ひとりだが、捌ききれそうにないので臨時のバイトも募集しなければならない。
直面している仕事に向き合うだけでも手一杯なのに、僕の心はライム色。
廊下の西の端で、ため息を吐く僕に、廊下の東の端から事務長が叫ぶ!
「迷ってる時間はないよ!」
事務長は、つかつかと僕の近くまで歩み寄ると、小さな子を叱る母のように力強く、こう言った。
「いいか。小鳥だろうが、人間だろうが、自分の命は自分で燃やすんだ。命の行方は誰かに決めてもらうものじゃない。命の舵を取るのは自分自身だ。そうだろう?人間だったら、例え元カレが迎えに来ても、今のカレが好きなら、もう元カレの元に帰らない。それは本人の自由だろう?小鳥だって同じだ。新聞広告を読んだよ。インコを保護してるんだろ?インコだって、しっかりと魂を持ってるんだ。センセイが本気でインコを愛しているなら、インコをセンセイに惚れさせればいい。相思相愛の恋人の絆は誰にも引き裂くことは出来ない。今日はもう帰りなさい。帰ってインコを抱きしめてやれ。そして元の飼い主から電話が来たら、堂々と対応するんだ。元の飼い主が現れた結果は、インコの気持ち次第さ。インコがセンセイを選ぶか。元の飼い主を選ぶか。それはインコが決めることだ。」
「事務長・・ありがとうございます。」
僕は、泣き出しそうな気持ちを堪えて思いっきりの笑顔で、そう答えると、もう廊下を引き返していた。
「がんばれよ。敵は目前だぞ。戦闘機、戦車連隊、総攻撃開始だ。躊躇した方が負けだ!」
「アザーっす!」
僕は上着とカバンを持ち、職場を後にした。
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