ポップコーンはありません

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 まってこれってもしかしてすごくいい雰囲気なんじゃない?だってお店は?お客さんだってそれなりに居たし、まだ閉める時間じゃないはず。それならなんで?わざわざあたしを呼び止めにくる理由もそんな時間もあるわけじゃないのに。 「店長」 「舞ちゃん」  声が偶然重なった。  その次に、ひと足早く話し出したのは、店長のほう。 「舞ちゃん、俺結婚するんだ。今店を見ててくれてる人がその人なんだけど。一番店に来てくれてるの舞ちゃんだからさ、ちゃんと伝えたくて。こんな小さな店が潰れずにやってこれたのも、いつも来てくれる舞ちゃんとか常連さん、それに舞ちゃんのその明るさに何度も救われたから、そのおかげなんだよね。だから、その……これからも来てくれると嬉しい。気持ちには応えられないけど、俺も舞ちゃんが会いに来てくれるのが嬉しかったし告白されてもないのに振ることなんて出来なくて、それに傷つけたくなかったから。色々期待させちゃってたら本当に、ごめん。舞ちゃんの求めてるものがそういう好きじゃないってのは分かってるんだけど、でも、舞ちゃんのこと好きなのは変わらないから。また来てよ、待ってるから」  店長が話してる間、ずっと。頭にはハテナが浮かぶ。  話が長い。ずーっとなんか喋ってるな〜なんて思いながら聞いてしまった。相槌を打つ暇もなく、完全にあたしが下の立場で話されてなかった?しかもなんであたし振られてるんだろう。手のひらに積まれたホワイトチョコレートが、恥ずかしさと少しの怒りによって高まった体温で溶けてしまわないか心配になる。このチョコは悪くないしね、後で美味しく食べないとだし。なんたって高いやつだから。 「店長〜何言ってるんですかあ〜あたしは〜あの店が好きで通ってるんです、まあ?店長のことは好きですけどそういう好きじゃないし〜、ね?まあこのチョコは貰っときますけど!あ、結婚式は呼んでくださいよ〜?」  酔ったフリ。好きじゃないフリ。馬鹿なフリ。 「うん。ごめんね、ありがとう。良かった!じゃ、店戻らないとだから。舞ちゃん、また!仕事頑張って!」  えーなんか今のもめっちゃ適当じゃなかった?事が済んだから、じゃあ〜!みたいな感じ。ムカつく。言い方とか言葉こそ丁寧でも、手を出してきただけ先輩の方が根性あんじゃんか。なんだったの今の。ああもう、なんかイライラする。 「舞ちゃ〜ん!おやすみ!」  遠くから叫ぶ店長の声。んんん、でも声は好き。店長も好き。煮えに煮えてぐちゃぐちゃになった最後らへんの肉じゃがみたいに、いろんな感情が少しずつ混ざって汚くなった。  店長が店に入ったのを確認してその場にドサッとしゃがみこむ。はあ。好きだったのに。大切なちゃんとした好きだったのに。最悪だ。最悪。
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