ポップコーンはありません

1/12
前へ
/12ページ
次へ
 私は猫。ここは映画館。  野良猫のようにふらりふらりと足取り軽く、──いや、もしかして人間ってのは足取りが重くなるとああやってひょろひょろとした歩き方になるのでしょうか?──そうやって、ゆらり、たらり、と歩きながらもなんとかここへとやって来ることのできたラッキーな人間たちに対して、その人にぴったりな一本を上映するのが私の仕事。  ほら、またひとり、この場所に相応しい人を見つけてしまいました。あーあ、あんなに酔っ払っちゃって。あんな足取りでは危なっかしいったらありませんね。そしてその足取りの理由も、聞かずともなんとなしに伝わります。ううむ、そうだなぁ、これは失恋。私も経験したことがあります。あの時の相手は窓越しの可愛い飼い猫で。うっかり一目惚れをして……おっと、ついつい話しすぎてしまいましたね。悪い癖です。とにかくあの方をこちらへ連れてきてしまいましょうか。  さてさて、そうしたら。あのお客さんにはどんな映画が合うかの話をしましょう。恋愛映画?いいえ。今はきっとこの一本。嗚呼そうだ、君も見ていきますか?もちろん特別です。隅っこの席でも取って見ていったらいいですよ。あ、バレないように、それだけ気をつけて。  ではでは、またエンドロールの後で。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加