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「逃げんなたわけ!勝負しやがれ!」
シュッシュと何度もパンチを放つ男だが、海の背中には追いつけない。俺はファイティングポーズのままに、そんな光景を暫し眺める。
「逃げてんじゃねえよ、頭使ってんだよ」
「はあ!?」
「だっておっさん俺よりおっきいじゃん、ズルいじゃん」
「ズリいのはそっちだろうが!ふたりでかかってきやがって!」
「アホかっ、これは合体だっつの。だから一対一なのっ」
「んああぁぁあ!?」
ラグビー選手にもなれそうな体格を持って、ゴツい指輪を何個も装着したグーだって大きくて。そんな彼等からしてみれば俺はただのネズミだ。もともとフェアじゃないのだから、少しは武装させてくれよ。
何分か経ち、海が言う。
「お、おい、いつまでこれ走ってりゃいいんだよ……」
汗ばむ背中から彼の疲れは感じていたが、それに伴い、スピードも段々と落ちてきた。
「海、疲れたん?」
「けっこー、限界……」
「ちょっと待て、今確認すっから」
男を見る。然り、と思えばニヤけてしまう。
「もういいよ、海。お疲れ」
俺は歯と根性で、紐を切った。
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