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着地した俺は、へなへなと地に膝をつける男の前で仁王立つ。
「なにが高校生じゃ俺に勝てない、だよっ。めちゃんこ体力負けしてんじゃねえかっ」
肩で息をする彼からは血走る目を向けられるだけで、拳はすっかり解かれパーのかたち。俺はボキッと指を鳴らす。
「立てよ、おい」
眩い頭頂部に朝陽が反射し後光がさす。
鷲掴む髪は一本として生えていないから、俺はそこをベチベチ叩いた。
「はい、じゃあおっさんの負けね。組長とかに言うのだめだよ。ってか高校生に負けたとか内緒にしといた方がいいよ。すんごい恥ずかしいことだから」
ベチベチベチ。男は俺の手を振り払う。
「い、いつか、ぜってえ殺すからな……」
貫禄ある強い目つきに身の毛がよだつが、それは格好悪いから面には出さない。
「だめだめ、おっさんはもう過去に悪いことしてんでしょ?俺、今から警察行っておっさんの似顔絵描いちゃうんだから。この辺にいましたーって言っちゃうんだから。もうおっさんはこの近辺彷徨けないよ。そして俺はこの近辺でしか遊ばないから、もう二度と会えないよ」
グッバイ、と最後に手を振った俺は、コンクリートで胡座をかき傍観していた海を起こす。
「学校行こ〜」
「ええ、今から行くの?」
「だってまだ一限目の時間だぜ?」
「なんかだりいなぁ」
「じゃあ海の家でイチャイチャする?」
「……がっこ行こ」
外で腕は組んでくれない、手も繋いではくれない。
なんだかずっと、物足りない。
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