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「美咲のやつ、海のこと好きっぽいよな」
放課後のうどん屋。俺は無難にきつねうどん、海は──
「なにそれ」
「え?ココナッツミルクうどんだよ」
「どゆこと……」
海の食に対してか、美咲に対してかわからぬ溜め息が抜けていく。
「美咲が海のこと、好きかもしんねえのっ」
ズズッと麺を啜り、俺は言う。海はレンゲで掬ったスープの香りを楽しんでいた。
「だからなに」
「なにって……お前は今傍目から見りゃフリーなわけでっ、俺とこうしててもただ男友達と飯食ってるなとしか思われないわけでっ」
「で」
「だから、美咲が頑張っちゃうじゃんっ」
「なにを」
「海をゲットしようとっ」
ココナッツの匂いが鼻を突き苛々する。べつにココナッツ自体が嫌いなわけではないが、うどん屋で嗅ぐ匂いでは決してない。俺は器の縁から麺を口に流すことで、なるべく油揚げから立つ湯気を吸入した。
「んなの、美咲が頑張ったからって俺があっちに靡くわけねえじゃん。だって俺が好きなのは神なんだから」
そうかと思えば一瞬にして、きゅうんと締め付けられるハート。
「俺の眼、神しか見えてねえぜ?」
どんどこばこばこ大騒ぎ。
「海、俺のこと好きなの?」
「おう」
「すっげえ好きなの?」
「おう」
「いやんっ。まじすこぶるハッピーッ」
くねくねと身を捩らせ大いに喜ぶ俺を見て、海も嬉しそうな顔をした。
「神のそういうとこも、大好きだよ」
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