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作戦
海と俺の交際は極秘だ。世間の誰にだってバレてはいけない。本当はふたりがキスをしているツーショット写真でも街中にばら撒いて知らしめたいが、それは海が許さない。この関係は、俺等ふたりしか知り得ない。
だから今の俺が、美咲に廊下の端へと呼び出されていることも、仕方ないといえば仕方ないのだ。
「くっら、やっば。廊下の隅ってさっむ」
十二月のスタートとなる今日は、ブレザーの上からもう一枚羽織りたくなるほどに寒かった。暖房設備のある教室でぬくぬくしていた俺を、半ば強引に連れ出した美咲が聞く。
「アイラって知ってる?」
「アイラ?知らね」
「六組の。ハーフの」
「ああ、加護アイラちゃん」
「その子と私と海神コンビでご飯行かない?」
「なんで」
「海くんとクリスマスまでに付き合いたいから」
その途端、ズコッとアニメのように転けて尻をつく。イテテと暫く起き上がれずにいると、美咲が同じ目線まで腰を落とした。
「アイラは神人を好きってわけじゃないんだけど、神人のことを面白い人だとは言ってたから、誘っても嫌な顔はしないと思う」
アイラさえオーケーすれば遂行するような言い方をされて、俺はみるみる焦燥感に駆られていく。
「ま、まだ行くって言ってねえじゃんっ」
「なんで。私とご飯するの嫌なの?」
「そ、そういう意味じゃねえけど、まだ海がっ」
「海くんは神人が来るなら来てくれるでしょ。あんたと海くん、仲良しなんだから」
ね、と華奢な手を差し伸べられて、思わず握り、立ち上がる。
「じゃあ今週の土曜にでも。お店とか時間はまた連絡するねー」
俺は海が断ってくれることをひたすら願いながら、放課後の彼に聞くほかなかった。
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